離婚問題解決

養育費の問題

1.養育費とは

養育費とは、未成熟の子が社会人として独立して成長・自立するまでに必要な全ての費用、つまり衣食住の費用や、教育費、医療費、適度の娯楽費などをいいます。

この「未成熟の子」というのは、必ずしも未成年とは一致しません。

実際に、離婚調停においても、子が大学を卒業するまでの間の養育費の支払を認める調停が成立することがあります。

また、生まれつき病弱で、成年となった後も入退院を繰り返して自宅で療養をしており、未だ独立して生活する能力を有していない子の養育費を認めた裁判例もあります。

養育費に含まれるかどうかが争われる場合は、その費用が親の生活水準と同等の生活水準を維持するために必要と言えるか、という基準で判断することになります。

特に、教育費については、小学校・中学校・高校・大学などの受験料、入学金、授業料、クラブ活動に必要な費用や、進学塾や家庭教師の費用、その他学校に支払う諸費用をいいますが、現在、わが国では大学その他の高等教育機関において教育を受けることが一般化している状況にあるものの、大学や私立学校や学習塾の費用まで含まれるかは、父母の学歴や生活レベルといった教育的・経済的水準に基づいて、個別的に判断されることになります。

2.養育費と扶養料の関係

(1)扶養義務について

扶養義務とは、生活保持の義務です。生活保持の義務とは、自分の生活を保持するのと同じレベルの生活を被扶養者にも保持させる義務です。

未成熟の子の扶養義務は、親権の有無に関係なく、両親が負担します。

従って、親権者でない親も扶養義務者となります。

(2)養育費と扶養料の関係

この様に、未成熟の子の両親が扶養義務者となることから、養育費は、未成熟の子の両親である扶養義務者の間における扶養料の請求権であると言えます。両親の間で合意した養育費の額が不十分である場合には、扶養権利者である子に扶養料請求が認められることになります。

(a)養育費を請求しないという合意がある場合

離婚の際に、父が、母に対して相当額の金銭を支払い、その代わりに養育費は一切請求しないとの念書を母から受け取っているという場合に、父に対する子からの扶養料の請求が認められるか、という問題があります。

この様な請求が認められるかは、父から支払われた金額や支払方法、念書の趣旨、約束の具体的な内容、支払われた金銭が消費された用途、不足に至った事情、請求する子の年齢、離婚後の事情の変化などの諸般の事情を考慮して、慎重に判断して決めるべきです。

なお、この様な場合に、合意をした母から再度の養育費の請求をすることは認められません。

(b)離婚の際に合意した養育費の支払いが終了した場合

父母が離婚の際に合意した養育費の支払いが終了した場合に、子が扶養料を請求できるか、という問題があります。

子が扶養の必要な状態にあるといった特段の事情があれば認められますが、既に支払が終了している事情が考慮されて、扶養が必要な状態の程度に応じて減額されることも考えられます。

3.請求の方法

(1)養育費の請求

(ア)夫婦が離婚する場合

民法第766条により、夫婦間に未成熟の子がいる場合、子の監護に関する必要な処分として、養育費を定めなければなりません。

協議離婚の際に、養育費に関して合意をすることができます。

  1. 協議離婚の際に、養育費について合意をすることができます。
  2. 当事者間で養育費についての協議がまとまらない場合は、家庭裁判所で協議に代わる審判によって定めることになります。
  3. 離婚調停において、養育費を定めることもできます。
  4. 家事審判法第24条の調停に代わる審判においても、養育費の支払いについての審判ができるとされています。
  5. 裁判離婚においては、養育費について附帯処分の申し立てができます。
(イ)離婚後に請求する場合
  1. 離婚後に協議して、養育費を定めることができます。
  2. 子が成年になるまでの間は、父母が当事者となって、養育費請求の調停あるいは審判を申し立てて養育費を定めることができます。
  3. 離婚訴訟の係属中に当事者が協議離婚をしたが、その時に養育費の合意ができなかった場合に、離婚訴訟において附帯処分の申し立てがなされていれば、家庭裁判所は、その附帯処分の審理と裁判をします。

(2)扶養料の請求

協議によって定めることができます。

また、扶養権利者である子は、扶養義務者である一方の親に対して、親権者である他方の親を法定代理人として、家庭裁判所に扶養料請求の調停を申し立てることもできます。

請求の相手方である親に資力がない場合には、その親の父母(子にとっては祖父母になります)に扶養料の請求ができるとされた裁判例もあります。

4.養育費の支払方法

(1)定期金支払

養育費は、その性質上、定期金支給の方法によるべきであり、総額を一括して支給する方法は、原則として認められていません。

未成熟の子の成長段階に応じた養育費の支払という性質からも、定期金支給の方法が妥当ですし、総額一括支給の方法を認めると、未成熟の子を引き取った親が自分のための出費に充ててしまう危険性もあるからです。

養育費が支払われる子が複数いる場合には、それぞれの子ごとにどれだけ支払われるのか、その割り当てられる額を明確にします。

(2)養育費が支払われる子が複数いる場合には、それぞれの子ごとにどれだけ支払われるのか、その割り当てられる額を明確にします。

上記の様に、一括支払の方法は原則として認められませんが、扶養義務者が特に希望する場合や、その他特別の事情がある場合に限って、例外的に一括支払が認められることがあります。

日本人の母と外国人の父との間の子の養育費につき、離婚後、父が本国へ帰国する予定である場合、将来にわたる定期的な養育費の支払が履行される可能性が低いという理由で、養育費の一括支払が認められたケースがあります。

なお、一括支払の合意がなされた場合には、その後再び養育費の支払いを請求することは認められません。

これを認めると、一括支払をした扶養義務者に過重な負担を強いることになり不公平ですし、一括支払を受けた親には、これを計画的に使用して子を養育する義務があるからです。

5.養育費の増減額請求

養育費を取り決めた後に、支払を請求する側或いは支払義務を負う側に、それぞれ養育費取り決め時の事情が変化した場合には、養育費の増額・減額の請求ができます。

但し、養育費の取り決めは、当事者の新たな生活設計を検討する際の基本的な要素となるものですから、養育費の増額・減額をするには、一定の期間の経過と相当程度の事情の変化があったことが必要です。

養育費の増額・減額請求において考慮される事情としては、

  1. 父又は母の再婚、それによる新たな子の出生
  2. 父母双方の職業の変更とそれに伴う収入の変化
  3. 父母の社会的地位の変化とこれに伴う収入・支出の増減
  4. 父母の病気
  5. 養育費支払いの対象である子の成長・就職
  6. その他、当事者を取り巻く社会的状況、経済情勢の変動など諸般の事情の変化が生じた場合
  7. 養育費を取り決めた時の交渉の経緯(慎重な交渉がなされたか、公正証書が作成されたか等)

といったものが挙げられます。

6.婚姻費用について

最後に、養育費・扶養料と同様の性質を有する「婚姻費用」について、説明をさせて頂きます。

(1)婚姻費用とは

婚姻費用とは、夫婦と未成熟の子で構成される婚姻家族が、その資産・収入・社会的地位に応じた通常の社会生活を維持するために必要な費用であり、民法第760条により、夫婦が互いに分担するものとされています。

通常の婚姻家族の衣食住の費用の他、子の教育に関する費用や、医療費、その婚姻家族の社会的地位にふさわしい娯楽費、文化・教養費、交際費なども含まれます。

婚姻費用の分担義務は、扶養料と同じく、生活保持の義務です。

(2)婚姻費用の範囲

(ア)物的範囲

上記の通り、婚姻費用は、通常の婚姻家族の衣食住の費用の他、子の教育に関する費用、医療費、婚姻家族の社会的地位にふさわしい娯楽費、文化・教養費や、交際費などを含むものですが、未成熟の子の教育費(幼稚園や保育園の費用、学校の学費や塾・お稽古事の費用など)についても、婚姻家族の資産・収入・社会的地位にふさわしい範囲と金額のものについては、婚姻費用の対象となります。

また、私立中学や高校、大学の費用についても、その家庭の生活レベルから見てふさわしいものであれば、婚姻費用の対象となります。

さらに、夫婦が離婚の前段階として別居した場合の生活費についても、原則として婚姻費用の対象となります。たとえ別居生活に入ったとしても、離婚が成立しない限り婚姻は継続しているので、離婚するか、或いは別居生活が解消されるまでは、夫婦各自の生活は、別居するまでの共同生活のいわば「破片」として、別居以前の夫婦生活のレベルから見てふさわしい程度の各自の生活費や子の教育費については、婚姻費用となると考えるべきなのです。

なお、前述の通り、未成熟の子の教育費についても、婚姻家族の資産・収入・社会的地位にふさわしい範囲と金額のものについては、婚姻費用の対象となりますが、ここでの「未成熟の子」とは、「未成年」という意味ではなく、経済的に独立して自分で自分の生活費を得るべき時期の前段階にあって、未だ独立した社会人として期待されていない子女をいいます。

従って、未成年であっても、中学校や高校を卒業して社会に出て働いている子は、未成熟の子ではありません。

他方で、成人しているがまだ社会に出て働いていない子の養育費・教育費については、婚姻家族の生活水準から見て、子が当然に大学で教育を受けるべきレベルにあると考えられる場合には、大学卒業までは未だ未成熟の段階にあるとして、大学生の子の生活費や学費は婚姻費用の対象となるとされています。

(イ)人的範囲

婚姻費用は、夫婦と未成熟の子の生活費ですが、その夫婦には内縁の夫婦も含まれ、内縁の妻も内縁の夫に対して婚姻費用分担の請求ができます。

未成熟の子は、夫の前妻の子や、後妻と前夫との間の子であっても、後妻と同居している場合には、その子の生活費は婚姻費用の対象となります。

また、同居している夫或いは妻の両親の生活費についても、婚姻費用の対象となるとされています。

(3)婚姻費用の請求方法

具体的な婚姻費用の分担義務と内容については、夫婦間の協議によるか、協議に代わる家庭裁判所の調停・審判によって決められます。

調停が成立して調停調書が作成されると、確定判決と同じ効力が発生し、婚姻費用が未払いとなった場合には、調停調書に基づいて強制執行ができます。

審判の内容に不服がある場合は、審判が出されてから2週間以内に高等裁判所に即時抗告を申し立てることができます。

なお、婚姻費用の分担を急ぐ場合は、「調停前の措置」や「審判前の保全処分」の申し立てをすることができます。

例えば、別居して生活費に困窮している妻が、夫に対して婚姻費用分担の調停を申し立てた場合に、当面の生活費にも事欠き、調停の成立まで生活を維持することが困難である等の場合には、妻は、調停を申し立てた家庭裁判所に生活費の仮払い等を求める調停前の仮の措置を求めることが家事審判規則で認められています。家庭裁判所は、この場合、調停のために必要であると認めた時は、暫定的に、夫に対して生活費の支払い(仮払い)を命じることになります。この命令に基づいて強制執行を申し立てることはできませんが、家事審判規則において、この命令に従わなかった場合には10万円以下の過料の制裁が認められていますので、間接的な強制にはなります。

また、婚姻費用分担の調停を申し立てたものの、調停が成立せずに審判に移行した場合や、調停を申し立てずにいきなり婚姻費用分担の審判を申し立てた場合に、審判の成立まで生活を維持することが困難である等の場合には、審判が係属している家庭裁判所に生活費の仮払い等を命じる審判前の保全処分を申し立てることが家事審判法で認められています。この審判前の保全処分には民事保全法における保全処分と同様の効力があり、生活費の仮払いを命じる仮処分を得て、相手方の給与などに対する強制執行を申し立てることができます。

7.養育費・婚姻費用の履行確保

養育費や婚姻費用について、調停調書・審判書・判決・公正証書といったものがあれば、支払がなされない場合には、これら(債務名義という言い方をします)に基づいて強制執行を申し立てて、給与債権を差し押さえる等の方法によって、強制的に実現を図ることができます。

しかし、離婚事件においては、相手方の資産として給与債権しかない様な場合も多く、給与債権を強制執行によって差し押さえたために職場に居づらくなった相手方が退職してしまうと、たとえ強制執行を申し立てたとしても満足を得られなくなってしまいます。

そこで、強制執行以外の制度として、家事審判法においては、家庭裁判所が、調停や審判が終了した後も後見的立場から履行の促進を図るための、履行確保の制度が設けられています。

(1)履行勧告

履行勧告とは、調停や審判によって定められた養育費や婚姻費用の支払義務を怠っている義務者に対して、家庭裁判所が、権利者からの申し出を受けて、義務の履行状況を調べた上で、義務の履行を勧告するものです。

但し、強制力がないので、義務者に対して心理的な効果を与えるにとどまります。

(2)履行命令

履行命令とは、家庭裁判所が、権利者からの申し立てを受けて、調停や審判によって定められた養育費や婚姻費用の支払義務を怠っている義務者に対して、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命じるものです。

家庭裁判所は、履行命令を発する前に、義務者に意見を陳述する機会を与えなければなりません。

また、家庭裁判所は、履行命令を発する場合は、義務者に対して過料の制裁があることを告知する必要があります。これは、義務者に不測の損害を与えることを防ぐだけでなく、義務者に早期の履行を促す狙いもあります。

履行命令に従わない場合には、10万円以下の過料の制裁があり、この点で履行勧告より強力であると言えます。

実務では、まず履行勧告を行って、効果のない場合に制裁のある履行命令を発するのが通常です。

(3)金銭の寄託

調停や審判によって定められた養育費や婚姻費用の支払が円滑に行われる様に、家庭裁判所が、支払義務者からの申し出を受けて、権利者のために金銭の寄託を受け、これを権利者に交付することができる、というものです。