各種トラブルの解決

放置自動車の撤去の問題

もし仮に、自分の土地に勝手に自動車を止められ、そのまま誰も引き取りに来ないで放置されてしまったら、どういう手続を取れば撤去できるのでしょうか?

ここでは、この放置自動車の撤去問題について、説明させて頂きます。

1.放置自動車の所有者の確認

撤去の場合、請求の相手方は放置自動車の所有者となりますので、まずは所有者が誰なのかを調べる必要があります。

その方法は、放置自動車が軽自動車以外か軽自動車かで異なります。

(1)軽自動車以外の普通車両の場合

放置自動車が軽自動車以外の普通車両であれば、「登録事項等証明書」を最寄りの運輸支局(かつて陸運局と呼ばれていました)で取り寄せることができます(道路運送車両法第22条に基づく)。

登録事項等証明書の交付申請に必要なものは、次の通りです。

  1. 交付申請する人の身分証明書(窓口で提示)
  2. 取得手数料
  3. ナンバープレートの番号
  4. 車台番号の下7ケタ

但し、私有地における放置車両の所有者・使用者を確認することを請求の事由とする場合には、次の事項を明らかにして請求すれば、上記「4.」の車台番号の記載は必要ありません。

  • a.車両が放置されている場所を明確にすること。
  • b.車両が放置されている場所の見取り図を添付すること。
  • c.車両が放置されている期間を明らかにすること。
  • d.放置車両の写真を添付すること。

登録事項等証明書には、現在の名義人や使用者のみ記載される「現在登録事項証明書」と、新車登録時から現在までの名義人や使用者が記載される「詳細登録事項証明書」があります。後者を取り寄せるのが何かと便利ではないかと思われます。

交付請求書を1件につき30円で購入して、登録事項証明書を請求します。

取得手数料は、現在登録事項証明書が1通300円、詳細登録事項証明書は1通1,000円で1枚追加されるごとに300円ずつ加算されます。

(2)軽自動車の場合

軽自動車の場合は、登録事項証明書の制度はありません。

最寄りの軽自動車協会で閲覧申請をして、開示の許可が出された事項についてのみ情報を得ることができます。但し、個人情報保護の問題もあり、最近はなかなか情報を得られにくいと言えます。

この様に、軽自動車と軽自動車以外とで登録情報の取得が大きく異なるのは、道路運送車両法第4条で、軽自動車について自動車登録ファイルへの登録の対象から除外されているためです。

2.放置自動車の撤去の方法(その1)

放置自動車の撤去のための法的手続は、運輸支局の登録の有無によって異なってきます。

登録のある(ナンバープレートの付いている)普通自動車は、法律上は不動産と同じ性質を有するとされていますので、差押えや売却手続は不動産競売とほぼ同じ手続で行われます(自動車競売手続といいます)。

登録のない(ナンバープレートの付いていない)普通自動車と軽自動車は、法律上は動産と同じ性質を有するとされていますので、差押えや売却手続は一般の動産として行われます(動産競売手続といいます)。

さらに、所有者の状況としては、所有者と連絡が取れる場合と、連絡が取れない場合の2つがあります。

そこで、まず、「登録のある普通自動車」につき「所有者と連絡が取れる場合」について、説明させて頂きます。

この場合の手続の流れは、次の通りとなります。

(1)所有者に対して、内容証明郵便にて、未払い駐車料の請求、契約解除の通知、自動車の撤去及び駐車場明け渡しの請求をします。

記載内容は、

  1. 平成○○年○月○日までに未払い駐車料○○万円を支払ってほしい。
  2. 「1.」の期限内に未払い駐車料の支払がない場合には、不払いを条件として、この内容証明郵便により契約解除の意思表示を行う。
  3. 「2.」により契約解除がなされた場合には、解除の日から○日以内に自動車の撤去及び駐車場の明け渡しを請求する。

(2)内容証明郵便が戻ってきてしまった場合には、再度送付書をつけて発送する。

所有者が留守にしがち等の理由で、内容証明郵便が受け取られずに戻ってくる場合があります。その場合には、送付書を添付して、再度発送します。普通郵便でもよいですが、特定記録郵便にしてもよいでしょう。

送付書には、「平成○○年○月○日付でお送りした内容証明郵便が、留置期間経過により戻ってまいりましたので、改めて本日お送りします。」といった記載をします。

そして、後日訴訟となった場合の証拠とするために、送付書はコピーを取って保存しておいて下さい。

(3)未払い駐車料の支払及び駐車場明け渡しを請求する訴訟を提起する。

所有者が(1)と(2)の郵便のいずれをも無視した場合は、訴訟を提起することとなります。

ここでの請求のポイントは、

  1. 契約解除の意思表示
  2. 駐車場の明け渡し請求
  3. 未払い駐車料の支払請求
  4. 解除後の不法占拠に対する駐車料相当の損害金の支払請求

となります。

(4)判決を取得する。

裁判所で勝訴判決を取得します。

特に、被告である所有者が答弁書を提出することなく期日に欠席した場合は、「欠席裁判」ということになり、勝訴判決を得ることができます。

(5)自動車の差押え(競売手続)を裁判所に申し立てる。

勝訴判決の判決正本を債務名義として、自動車の差押え(競売手続)を裁判所に申し立てます。

そして、駐車場の貸主自身が自己競落するか、第三者に競落してもらいます。貸主が中古車販売業者に話をして競落してもらうのも良いでしょう。

自動車の価格評価において価値があると認められ、競落ができ、自動車を撤去できれば、事件は解決となります。

(6)自動車競売ができなかった場合には不動産の明け渡し執行を行う。

競売を申し立てても、自動車の価格評価において、価値があると認められない場合には、競売手続の費用をまかなうことができないと判断され、裁判所は競売手続を途中で取り消します。

そこで、その場合には、既に言い渡されている勝訴判決に基づいて駐車場明け渡しの強制執行を行うことになります。

この強制執行は執行官が行ってくれます。自動車に価値があると認められない場合であっても、貸主が自分で勝手に無価値と判断して処分してはいけません。あくまでも判断するのは執行官です。その判断は、執行官が、駐車場明け渡しの強制執行実施日において当該駐車場にある自動車を「無価値」であると宣言し、その「無価値物」の処分を債権者(貸主)に委ねる、という形を取るのが一般的です。

自動車競売で処理できない自動車については、明け渡し執行の際に、駐車場の明け渡しに伴う残置物となり、ゴミとして処理することができます。

(7)登録自動車をゴミとして廃棄処分する廃棄処分する場合の問題点

ゴミとして処理するとしても、ナンバープレートが付いているので、廃車手続を行う必要があります。

しかし、廃車手続は自動車の登録名義人しかできません。そのため、駐車場の明け渡し執行で登録自動車をゴミとして廃棄処分する際には、貸主は廃車手続を行うことはできません。

実務上は、ナンバープレートの付いたまま、登録自動車を解体業者に引き取ってもらうことになります。

3.放置自動車の撤去の方法(その2)

次に、「登録のある普通自動車」につき「所有者と連絡が取れない場合」について、説明させて頂きます。

この場合の手続の流れは次の通りですが、所有者と連絡が取れる場合との大きな違いは、初めから訴訟を前提としたものとなることです。

(1)未払い駐車料の支払及び駐車場明け渡しを請求する訴訟を提起する。

ここでのポイントは、前述の2.(3)において掲げたポイントと同じです。

但し、所有者が所在不明ですので、このままでは訴状を所有者に送達することができず、訴訟が始まりません。

そこで、公示送達の手続によって、訴状の送達の効力を発生させることとなります。

公示送達は、被告が住民票上の住所およびそれ以外の居所と考えられる場所のいずれにも居ないことを、原告側で調査し、その調査報告書を申立書に添付して裁判所に申し立てる、という手続で、申立後に裁判所内の掲示板にその旨の掲示がなされた日から2週間を経過した時に、被告に送達されたという効力が生じることになります。

こう申し上げただけでも、なんだか面倒な手続の様に感じられたと存じますが、実際その通りで、住民票を取り寄せた上で、調査報告書の作成のために原告側が現地へ出向いて調査を行い、調査報告書を作成しなければなりません。

従って、通常の訴訟と比べて、かなりの時間と労力を余計に費やすことになります。

(2)判決を取得する。

公示送達によった場合、所有者と連絡が取れる場合と異なり、「欠席裁判」はありません。

欠席裁判となるのは、現に訴状が被告に送達され、答弁書を提出して争うことができたにも拘わらず、被告がそれをせずに欠席したのは、訴状に書かれている原告の請求を全面的に認めたものとみなされるからです。

しかしながら、公示送達の場合は、被告は欠席するものの、実際に訴状を見た訳ではありませんので、貸主が勝訴判決を得るには、証拠によって訴状の内容が真実であることまで立証しなければなりません。それ故に、場合によっては貸主本人や駐車場管理会社の担当者の法廷での尋問まで行われる可能性もあるので、欠席裁判とはならないのです。

従って、判決の取得には余計に時間がかかることになります。

(3)判決取得後の手続

判決取得後の手続は、前述の2.(5)(6)(7)において申し上げたものと同じです。

4.放置自動車の撤去の方法(その3)

マンションの駐車場に、管理費や駐車場使用料を滞納したまま行方不明となっている住人の自動車が放置されている場合、管理組合はこの放置自動車を撤去するにあたって、どの様な方法を取ればいいでしょうか?

この点については、近時最高裁判所で判決が出された争点もありますので、次に説明させて頂きます。

(1)住人が放置自動車の所有者であると判明した場合には、前記2.で申し上げた通りの展開となります。

(2)それでは、放置自動車の所有者が住人以外の者であった場合は、どうなるのでしょうか? これは、自動車の代金が分割払いとなっている場合に、所有権留保特約が契約に付されていることから、完済までの所有者がディーラー或いはクレジット会社となっている、というケースが、その例として挙げられます。

  1. 例えば、クレジット会社が所有者であることが判明した場合には、まず、クレジット会社に対して任意の撤去を請求することとなります。
    しかし、住人が管理費や駐車場使用料を滞納して行方不明となるケースでは、現実的に放置自動車に引き取るだけの価値が残っていることは少ないので、クレジット会社が撤去を拒否することが多いと考えられます。
  2. そこで、次に、クレジット会社に対して、放置自動車の撤去及び駐車場の明け渡し、並びに未払いの管理費及び駐車場使用料並びに住人との駐車場使用契約が解除された時から明け渡し済みに至るまでの駐車場使用料相当額の損害賠償を請求する訴訟を提起することとなります。
    但し、この訴訟の前提として、マンションの管理組合が法人であることが必要となります。法人でない場合には、管理組合は「権利能力なき社団」ということになり、手続が面倒になるからです。法人であれば、管理組合の名前で提訴することができます。
    この請求が認められるかにつき、平成21年3月10日、最高裁判所の判決が出ました。
    原審は、クレジット会社が有する留保所有権は、通常の所有権ではなく、実質的には自動車の担保価値を把握する機能を有する担保権の性質を有するに過ぎないから、クレジット会社は、所有者として自動車を撤去して駐車場を明け渡す義務を負わない、として、請求を棄却しました。
    しかし、最高裁判所は、クレジット会社が自動車の代金を立替払いすることによって取得する同自動車の所有権は、立替金債務が完済されるまで同債務の担保としてクレジット会社に留保されているとして、クレジット会社は自動車の買主が立替金債務について期限の利益を喪失しない限り自動車を占有・使用する権原を有しないが、買主が期限の利益を喪失して残債務全額の弁済期が経過したときは買主から自動車の引き渡しを受け、これを売却して代金を残債務の弁済に充当することができる、と判示しました。
    そして、その上で、最高裁判所は、
    「動産の購入代金を立替払する者が立替金債務が完済されるまで同債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において、所有権を留保した者(以下、「留保所有権者」といい、留保所有権者の有する所有権を「留保所有権」という)の有する権原が、期限の利益喪失による残債務全額の弁済期(以下「残債務弁済期」という)の到来の前後で上記のように異なるときは、留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても、特段の事情がない限り、当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはないと解するのが相当である。なぜなら、上記のような留保所有権者が有する留保所有権は、原則として、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産の交換価値を把握するにとどまるが、残債務弁済期の経過後は、当該動産を占有し、処分することができる機能を有するものと解されるからである。」
    として、原審判決を破棄差戻しとしたのです。
  3. この最高裁判決の見解によれば、買主が期限の利益を喪失し、クレジット会社が所有権留保特約を実行できる立場となった時には所有者としての責任を負うが、その立場となっていない時は責任を負わない、ということになります。
    従って、自動車を放置して行方不明となる様な人は、自動車のクレジット債務も弁済していないのが通常ですから、管理組合は留保所有権者のクレジット会社に自動車の撤去を請求することができると言えますが、仮に、買主がクレジット債務を完済して所有権留保特約が消滅していて、クレジット会社は単に自動車の登録名義人に過ぎない場合には、クレジット会社に自動車の撤去を請求することはできない、という結論となります。

5.放置自動車の撤去の方法(その4)

次に、「登録のない普通自動車或いは軽自動車」につき「所有者と連絡が取れる場合」について説明させて頂きます。

この場合、裁判所で勝訴判決を取得するところまでは、「登録のある普通自動車」につき「所有者と連絡が取れる場合」と同様ですが、その後の強制執行の手続が異なります。

前述の通り、登録のない普通自動車や軽自動車は、法律上は動産と同じ性質を有するとされていますので、動産の強制執行の手続によることになります。

動産の強制執行も、勝訴判決の判決正本を債務名義として行うのですが、申立を行う場所は、地方裁判所の執行官室です。

申立に必要な書類は、この執行官室で入手できますが、申立に際して、予納金を納付しなければならない上(金額は各裁判所によって異なりますので、申し立てる裁判所で確認して下さい)、現地の図面を作成して添付しなければなりません。

これは、差押えの当日に、放置自動車のある現地へ執行官が出向くので、現地の周辺の図面を提出する必要があるためです。目印となる建物や交通機関の駅等の他、現地周辺の道路状況(近くに国道や高速道路が通っているとか、ごく細い道路しか通っていない等)を書いておくと良いでしょう。

また、申立の際、申立人が差し押さえに立ち会うのかを確認されますので、必ず「立ち会う」と回答して下さい。立ち会わないと回答すると、手続を急がない事案と扱われ、後回しにされてしまうからです。

さらに、差押え当日は、非常に慌しいことになります。

朝9時に申立をした裁判所に出向きます。執行官が何時頃に現地へ来てくれるのか、ここで初めて分かります。そして、そこから、執行官が到着する前に、現地へ先回りして待っていなければなりませんので、現地が裁判所から遠い場合は非常にせわしいことになります。その上で、執行官に現地の放置自動車を見分してもらい、競売価額の連絡を待つことになります。

この様な慌しい思いをして動いても、競売価額は非常に低額となるのが通常です。

6.放置自動車の撤去の方法(その5)

最後に、「登録のない普通自動車或いは軽自動車」につき「所有者と連絡が取れない場合」について説明させて頂きます。

これは、放置自動車のナンバープレートがなく、放置というよりは投棄されている状態の場合や、そこまでには至っていないものの、登録が抹消されていて所有者がどうしても判明しない場合が典型例であると言えます。

この様な場合には、どうすべきでしょうか?

この場合、特に前者の場合は、廃棄物処理法違反の不法投棄罪として警察に刑事告訴(所有者が判明しない場合には被疑者不詳として告訴)することもできますが、警察が撤去までしてくれる訳ではありません。

そこで、放置自動車を無主物(所有者のない動産)として、駐車場の所有者自らがこれを占有して所有者となり(民法第239条第1項)、その上で放置自動車を自己の所有物として処分する、ということになります。但し、その場合でも、処分費用は負担しなければなりません。

また、万一後日になって所有者が現れ、無用のトラブルが発生するのを防ぐ意味でも、上記のいずれの場合においても、自動車の放置の状況を写真に撮っておき、証拠として保存することが必要であると思われます。