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もし仮に、自分の土地に勝手に自動車を止められ、そのまま誰も引き取りに来ないで放置されてしまったら、どういう手続を取れば撤去できるのでしょうか?
ここでは、この放置自動車の撤去問題について、説明させて頂きます。
撤去の場合、請求の相手方は放置自動車の所有者となりますので、まずは所有者が誰なのかを調べる必要があります。
その方法は、放置自動車が軽自動車以外か軽自動車かで異なります。
放置自動車が軽自動車以外の普通車両であれば、「登録事項等証明書」を最寄りの運輸支局(かつて陸運局と呼ばれていました)で取り寄せることができます(道路運送車両法第22条に基づく)。
登録事項等証明書の交付申請に必要なものは、次の通りです。
但し、私有地における放置車両の所有者・使用者を確認することを請求の事由とする場合には、次の事項を明らかにして請求すれば、上記「4.」の車台番号の記載は必要ありません。
登録事項等証明書には、現在の名義人や使用者のみ記載される「現在登録事項証明書」と、新車登録時から現在までの名義人や使用者が記載される「詳細登録事項証明書」があります。後者を取り寄せるのが何かと便利ではないかと思われます。
交付請求書を1件につき30円で購入して、登録事項証明書を請求します。
取得手数料は、現在登録事項証明書が1通300円、詳細登録事項証明書は1通1,000円で1枚追加されるごとに300円ずつ加算されます。
軽自動車の場合は、登録事項証明書の制度はありません。
最寄りの軽自動車協会で閲覧申請をして、開示の許可が出された事項についてのみ情報を得ることができます。但し、個人情報保護の問題もあり、最近はなかなか情報を得られにくいと言えます。
この様に、軽自動車と軽自動車以外とで登録情報の取得が大きく異なるのは、道路運送車両法第4条で、軽自動車について自動車登録ファイルへの登録の対象から除外されているためです。
放置自動車の撤去のための法的手続は、運輸支局の登録の有無によって異なってきます。
登録のある(ナンバープレートの付いている)普通自動車は、法律上は不動産と同じ性質を有するとされていますので、差押えや売却手続は不動産競売とほぼ同じ手続で行われます(自動車競売手続といいます)。
登録のない(ナンバープレートの付いていない)普通自動車と軽自動車は、法律上は動産と同じ性質を有するとされていますので、差押えや売却手続は一般の動産として行われます(動産競売手続といいます)。
さらに、所有者の状況としては、所有者と連絡が取れる場合と、連絡が取れない場合の2つがあります。
そこで、まず、「登録のある普通自動車」につき「所有者と連絡が取れる場合」について、説明させて頂きます。
この場合の手続の流れは、次の通りとなります。
記載内容は、
所有者が留守にしがち等の理由で、内容証明郵便が受け取られずに戻ってくる場合があります。その場合には、送付書を添付して、再度発送します。普通郵便でもよいですが、特定記録郵便にしてもよいでしょう。
送付書には、「平成○○年○月○日付でお送りした内容証明郵便が、留置期間経過により戻ってまいりましたので、改めて本日お送りします。」といった記載をします。
そして、後日訴訟となった場合の証拠とするために、送付書はコピーを取って保存しておいて下さい。
所有者が(1)と(2)の郵便のいずれをも無視した場合は、訴訟を提起することとなります。
ここでの請求のポイントは、
となります。
裁判所で勝訴判決を取得します。
特に、被告である所有者が答弁書を提出することなく期日に欠席した場合は、「欠席裁判」ということになり、勝訴判決を得ることができます。
勝訴判決の判決正本を債務名義として、自動車の差押え(競売手続)を裁判所に申し立てます。
そして、駐車場の貸主自身が自己競落するか、第三者に競落してもらいます。貸主が中古車販売業者に話をして競落してもらうのも良いでしょう。
自動車の価格評価において価値があると認められ、競落ができ、自動車を撤去できれば、事件は解決となります。
競売を申し立てても、自動車の価格評価において、価値があると認められない場合には、競売手続の費用をまかなうことができないと判断され、裁判所は競売手続を途中で取り消します。
そこで、その場合には、既に言い渡されている勝訴判決に基づいて駐車場明け渡しの強制執行を行うことになります。
この強制執行は執行官が行ってくれます。自動車に価値があると認められない場合であっても、貸主が自分で勝手に無価値と判断して処分してはいけません。あくまでも判断するのは執行官です。その判断は、執行官が、駐車場明け渡しの強制執行実施日において当該駐車場にある自動車を「無価値」であると宣言し、その「無価値物」の処分を債権者(貸主)に委ねる、という形を取るのが一般的です。
自動車競売で処理できない自動車については、明け渡し執行の際に、駐車場の明け渡しに伴う残置物となり、ゴミとして処理することができます。
ゴミとして処理するとしても、ナンバープレートが付いているので、廃車手続を行う必要があります。
しかし、廃車手続は自動車の登録名義人しかできません。そのため、駐車場の明け渡し執行で登録自動車をゴミとして廃棄処分する際には、貸主は廃車手続を行うことはできません。
実務上は、ナンバープレートの付いたまま、登録自動車を解体業者に引き取ってもらうことになります。
次に、「登録のある普通自動車」につき「所有者と連絡が取れない場合」について、説明させて頂きます。
この場合の手続の流れは次の通りですが、所有者と連絡が取れる場合との大きな違いは、初めから訴訟を前提としたものとなることです。
ここでのポイントは、前述の2.(3)において掲げたポイントと同じです。
但し、所有者が所在不明ですので、このままでは訴状を所有者に送達することができず、訴訟が始まりません。
そこで、公示送達の手続によって、訴状の送達の効力を発生させることとなります。
公示送達は、被告が住民票上の住所およびそれ以外の居所と考えられる場所のいずれにも居ないことを、原告側で調査し、その調査報告書を申立書に添付して裁判所に申し立てる、という手続で、申立後に裁判所内の掲示板にその旨の掲示がなされた日から2週間を経過した時に、被告に送達されたという効力が生じることになります。
こう申し上げただけでも、なんだか面倒な手続の様に感じられたと存じますが、実際その通りで、住民票を取り寄せた上で、調査報告書の作成のために原告側が現地へ出向いて調査を行い、調査報告書を作成しなければなりません。
従って、通常の訴訟と比べて、かなりの時間と労力を余計に費やすことになります。
公示送達によった場合、所有者と連絡が取れる場合と異なり、「欠席裁判」はありません。
欠席裁判となるのは、現に訴状が被告に送達され、答弁書を提出して争うことができたにも拘わらず、被告がそれをせずに欠席したのは、訴状に書かれている原告の請求を全面的に認めたものとみなされるからです。
しかしながら、公示送達の場合は、被告は欠席するものの、実際に訴状を見た訳ではありませんので、貸主が勝訴判決を得るには、証拠によって訴状の内容が真実であることまで立証しなければなりません。それ故に、場合によっては貸主本人や駐車場管理会社の担当者の法廷での尋問まで行われる可能性もあるので、欠席裁判とはならないのです。
従って、判決の取得には余計に時間がかかることになります。
判決取得後の手続は、前述の2.(5)(6)(7)において申し上げたものと同じです。
マンションの駐車場に、管理費や駐車場使用料を滞納したまま行方不明となっている住人の自動車が放置されている場合、管理組合はこの放置自動車を撤去するにあたって、どの様な方法を取ればいいでしょうか?
この点については、近時最高裁判所で判決が出された争点もありますので、次に説明させて頂きます。
次に、「登録のない普通自動車或いは軽自動車」につき「所有者と連絡が取れる場合」について説明させて頂きます。
この場合、裁判所で勝訴判決を取得するところまでは、「登録のある普通自動車」につき「所有者と連絡が取れる場合」と同様ですが、その後の強制執行の手続が異なります。
前述の通り、登録のない普通自動車や軽自動車は、法律上は動産と同じ性質を有するとされていますので、動産の強制執行の手続によることになります。
動産の強制執行も、勝訴判決の判決正本を債務名義として行うのですが、申立を行う場所は、地方裁判所の執行官室です。
申立に必要な書類は、この執行官室で入手できますが、申立に際して、予納金を納付しなければならない上(金額は各裁判所によって異なりますので、申し立てる裁判所で確認して下さい)、現地の図面を作成して添付しなければなりません。
これは、差押えの当日に、放置自動車のある現地へ執行官が出向くので、現地の周辺の図面を提出する必要があるためです。目印となる建物や交通機関の駅等の他、現地周辺の道路状況(近くに国道や高速道路が通っているとか、ごく細い道路しか通っていない等)を書いておくと良いでしょう。
また、申立の際、申立人が差し押さえに立ち会うのかを確認されますので、必ず「立ち会う」と回答して下さい。立ち会わないと回答すると、手続を急がない事案と扱われ、後回しにされてしまうからです。
さらに、差押え当日は、非常に慌しいことになります。
朝9時に申立をした裁判所に出向きます。執行官が何時頃に現地へ来てくれるのか、ここで初めて分かります。そして、そこから、執行官が到着する前に、現地へ先回りして待っていなければなりませんので、現地が裁判所から遠い場合は非常にせわしいことになります。その上で、執行官に現地の放置自動車を見分してもらい、競売価額の連絡を待つことになります。
この様な慌しい思いをして動いても、競売価額は非常に低額となるのが通常です。
最後に、「登録のない普通自動車或いは軽自動車」につき「所有者と連絡が取れない場合」について説明させて頂きます。
これは、放置自動車のナンバープレートがなく、放置というよりは投棄されている状態の場合や、そこまでには至っていないものの、登録が抹消されていて所有者がどうしても判明しない場合が典型例であると言えます。
この様な場合には、どうすべきでしょうか?
この場合、特に前者の場合は、廃棄物処理法違反の不法投棄罪として警察に刑事告訴(所有者が判明しない場合には被疑者不詳として告訴)することもできますが、警察が撤去までしてくれる訳ではありません。
そこで、放置自動車を無主物(所有者のない動産)として、駐車場の所有者自らがこれを占有して所有者となり(民法第239条第1項)、その上で放置自動車を自己の所有物として処分する、ということになります。但し、その場合でも、処分費用は負担しなければなりません。
また、万一後日になって所有者が現れ、無用のトラブルが発生するのを防ぐ意味でも、上記のいずれの場合においても、自動車の放置の状況を写真に撮っておき、証拠として保存することが必要であると思われます。